COLUMN コラム
2025.04.07
映画プロデューサーになるということ8

 思っていたより早く状況は好転していった。在籍中より動き、映画化権を預かっていた「うずまき」(スピリッツ連載作!)「殺し屋1-イチ-」※1の映画化が動き出した。劇場公開での成功を念頭に進める本当の意味での初めての劇場映画だった。これまでミニシアターで上映し、成功するための方法論として考え、95年から徐々に準備を始めていた以下のポイントを企画に当てはめながら進めていった。そのポイントは以下の5点である。

  1.少年漫画でも少女漫画でもない青年コミック誌で発表されている漫画を原作に持つ企画

  2.企画にあわせ、この監督の作品として見たいと思える自ら選んだ監督

  3.キャストを俳優に拘らず、モデルやミュージシャンの起用。芝居力より“ツラ”を重視

  4.映画音楽をいわゆる劇伴の作曲家ではなく、ミュージシャンやアーテイストから人選

  5.スチール写真を広告・ファッションを手掛けるフォトグラファーから起用

 これらの組み合わせで映画界の人材だけではなく、あらゆるサブカルチャーを横断した総合芸術としての映画を目指した。99年、『うずまき』、00年、『殺し屋1』の撮影が始まる。しかし、『うずまき』はまだ自分の方法論に対する具体的なアプローチが十分に準備できていなかった。それが始めて上手くいったという実感を得られたのは次の『殺し屋1』である。しかもこういったことは監督がおもしろがってくれないとできない。そういう意味で三池崇史監督は度量が大きかった。これら二作品が縁で新しい会社への入社も決まった。96年の『人体模型の夜』で知り合った、当時東映ビデオに在籍していた三宅澄二氏に『うずまき』を提案したことと、その彼がオメガプロジェクトを立ち上げていた横濱豊行氏と組んで会社を立ち上げたことが幸いした。その横濱氏と三池監督は『オーディション』をやったばかりですでに『殺し屋1』もいっしょにやろうということになっていたのだ。この作品からはこれまでの作品を企画・制作するだけではなく、出資者をまとめる製作委員会の幹事会社業務をやるようになる。プロデュースだけではなく、完成後の劇場公開やビデオ発売・海外セールスまで行ういわゆるマネージメント業務まで担うことになり、プロデューサーとしては仕事の範囲は大きく広がった。

 これまで在籍していた会社の資金100%で作ることと、自社ではなく他社の資金で制作することを経験し、いくつかの作品では配給も手がけてきたが、今回の会社でやることを通してプロデューサーとしての仕事は一通り経験できた。そして上京時、願った自分の手で見たい映画を今度こそ自分の方法論で作ることはひとまず叶った。さらに国内外で多くの人に見てもらうことができた。でもこれで終わりではない。スタート地点に立ったばかりだった(若い時は『キッズ・リターン』のあの名台詞には反発があった。この後、企画製作する『青い春』『blue』が私たちなりの答えだった。しかし、今となってはあの台詞がよくわかる)。

 さらにより深く映画と自分の内面に潜っていきたい。プロデューサーになって10年を迎えようとしていた。まだ10年だった。

おわり

※1 以前、松永豊和氏の「バクネヤング」(必読!)の映画化を進めていた時に知り合った「ヤングサンデー」誌の担当編集・菊池一氏(現ビッグコミックスペリオール編集長)。ひょっとしてこういうぶっ飛んだ作品は彼が担当では?と連絡をしてみたところ、ビンゴ。彼のおかげで映画化権の話はスムーズに進んでいった。98年末、三池監督の『日本黒社会 LEY LINES』完成披露試写後、原作者・山本英夫氏と三池氏との初顔合わせ。その後は脚本の佐藤佐吉氏に入ってもらい脚本開発、連載終了前だったのでエンデイングまでの構想を聞かせてもらう。その時間は本当に刺激的だった。大いに刺激を受けた私は佐藤氏を大変困らせることになる。映画作りは自分との対話であり、他者との対話である。簡単には辿り着けない。

この期間のプロデュース&プロデュース参加作品 (1995-2000)

『覗かれた女』(米田彰監督)『ピアスの女』(辻裕之監督)『誘惑の女』(福岡芳穂監督)『女虐 NAKED BLOOD』(佐藤寿保監督)『LUNATIC』(サトウトシキ監督)『銃爪・トリガー』(福岡芳穂監督)『監禁』(坂本太・女池充監督)『人体模型の夜』(佐藤寿保監督)『天然少女萬』(橋口卓明監督)『ロマンティクマニア』(サトウトシキ監督)『プリズンホテル』(福岡芳穂監督)『恐怖!! 寄生虫館の三姉妹』(宮坂武志監督)『pierce LOVE&HATE』(安藤尋監督)『東京夜暴動』(及川中監督)『ダブルキャスト』(横井健司監督)『未成年性犯罪白書 これが私の生きる道』(橋口卓明監督)「つげ義春ワールド」(テレビ東京系)『dead BEAT』(安藤尋監督)『なで肩の狐』(渡辺武監督)『うずまき』(Higuchinsky監督)『伊藤潤二恐怖コレクション』(三宅隆太・清水崇・小田一生監督)「伊藤潤二恐怖コレクション」(テレビ朝日系)『殺し屋1』(三池崇史監督) 

※『ロマンティックマニア』『dead BEAT』『なで肩の狐』『うずまき』『殺し屋1』のみ劇場公開作。

 あとがき

 

  映画プロデューサーを続けて32年、独立して8年になる。資金力も営業力も人間的魅力もない三重苦の私が自らの企画を多くやってこられたのは勿論多くの優れた監督・脚本家、助けてくれたプロデューサーの先輩方・仲間たちが私の無謀を面白がってくれたおかげだが、それもこれも私が映画にしたいものをもっていたからこそだと思っている。そうじゃなかったらこんな社会性を持っていない人間を誰も相手にするわけがない。

 自分が見たいものがあること、作りたいものがあること。そしてそのための自分なりの方法論を持つこと。それ以上のプロデューサーの武器になるものはないと思う。なにせ、免許も資格もいらない仕事だ。逆に、最も危険なのは経験・キャリアを通して自分がその狭いノウハウに絡め取られることだと思う。

 自戒を込めて、素人であれ、プロであれ。

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